昭和21年2月、雪の剣山系から、九州に戻った祖父母と甥の栄一は戸畑の祖父母の家に到着した。
山を出るときに履いてきた長靴は、雪がなくなったところから、履き替えていた。
戸畑に到着した。
誰もいないはずなのに、不審な男女数名が家の中に入り込んで生活している様子だった。
しかし、不審なと言っても知らない人物はわずかで、後は、3人と顔見知りであった。特に、栄一の妻がいたのには、栄一はもとより、祖父母も驚いた。
栄一の妻は、栄一が留守の間に、押しかけてきて、居座ってしまった女性だった。終戦前に朝鮮に渡り、いわゆる売春をしていたようだった。
その話はちょうちんから、よく聞かされた。ちょうちんの姉も行っていて、「朝鮮は儲かるから、一緒にやらないか・・・」と、手紙で書き送ってきたと、よく話していた。
不審な男女の仲には、もちろんラッキーやちょうちんもいた。
祖父母、栄一の3人が帰宅したときは、そこにいた男女は出て行った。
数日して、不安を抱きながら、栄一は四国に帰った。
栄一が両人を見たのはこれが最後であった。
冬の寒い夜だった。外は雨で、男達の声がした。
外の騒ぎで、私は薄ぼんやりと、何が起こったかはわからなかったが、・・・これが私の記憶の始まりです。
この時、私が閉じ込められていたゴンゾウ小屋に祖母を押し込んだ。男達が大声で話す様子、雨の音、「トタンにしろ」という叫び声、
この時からいくらもしないで、戸籍上は私の叔父になっている秀夫が、ここに尋ねてくるのであった。
その時の様子を「びっくりしたなぁ~、もう、・・・戸畑の家にはな~んにもない。誰もいない。洋ちゃんは痩せて、歩けない」と、
つまり、祖父は死に、祖母は、さらわれ、私が押し込められているゴンゾウ小屋に連れてこられたのであった。